「丁寧に書いたのに、どこにも載らなかった」——広報の現場でいちばんよく聞く落胆です。このとき多くの担当者は文章の書き方を反省しますが、BOATshipは原因の大半が別のところにあると考えています。リリースが載るかどうかを決めているのは書き手ではなく、受け取った記者だからです。PESOモデルでいうEarned(報道)は、唯一こちらが直接コントロールできないメディアです。ならば「どう書くか」の前に「どう選ばれているか」を知るべきで、幸いこの領域にはジャーナリズム研究の長い蓄積があります。
落ちているのは文章の質ではなく「選定の土俵」
企業側は自社の出来事を「自分たちにとっての重要度」で並べます。一方、記者が並べ替えるのは「読者にとっての重要度」です。この二つの物差しが違うことを忘れると、社内では大ニュースの人事や機能追加を、そのままの温度で送りつけることになります。まず認めるべきなのは、リリースは審査を受ける書類ではなく、限られた紙面と時間の奪い合いに参加する一件だということ。土俵のルールを知らずに文章だけ磨いても、勝率は上がりません。
ニュースバリュー — 選ばれ方には規則性がある
Galtung と Ruge が1965年に発表した研究は、ニュースの選ばれ方が記者の気まぐれではなく、いくつかの共通した条件に沿っていることを示しました。彼らが挙げた要因には、出来事の規模が一定の閾値を超えていること、意味が曖昧でないこと、読み手にとって身近で関連づけられること、意外性があること、すでに報じられている話題の続報であること、そして具体的な人物に結びついていることなどが含まれます。これは広報にとって朗報です。何が選ばれるかに規則性があるなら、企画の段階から逆算して設計できるということだからです。
デジタル時代に更新されたリスト
ニュースバリューの議論は半世紀のあいだ更新され続けています。Harcup と O'Neill は2017年の研究で、現代の報道を対象にニュースバリューの一覧を作り直しました。そこでは従来の要因に加えて、独自性(他社が持っていない情報であること)、共有されやすさ、映像や写真として成立すること、続報として展開できること、そして媒体自身が力を入れているテーマと合致していることなどが重視されています。裏を返せば、素材の段階で写真や図が用意されていない企画、どの媒体に送っても同じ内容の一斉配信、単発で終わって続きのない話題は、この基準のいくつかを最初から落としているということです。
ゲートキーピング — 選ぶ側にも選ぶ側の事情がある
もう一つ押さえておきたいのが、選ぶ人の側の現実です。White が1950年に行った古典的なケーススタディは、通信社から届く大量の記事を紙面に載せるかどうか判断する一人の編集者(通称 Mr. Gates)の選択を追跡し、その判断が客観的な重要度だけでなく、担当者個人の関心や、単純に紙面が埋まってしまったという物理的制約にも左右されることを明らかにしました。のちに Shoemaker と Vos は、こうした「ゲートキーピング」が個人の判断だけでなく、取材の慣行、編集組織の方針、社会的な文脈といった複数の層で働いていることを整理しています。
実務への含意は身も蓋もありません。落ちた理由は「内容が悪かったから」とは限らず、送った相手・タイミング・その日の紙面事情かもしれない。だからこそ、一度落ちたことを企画の失敗と決めつけず、誰に・いつ・どの文脈で渡すかを変えて再挑戦する余地があります。
BOATshipの実践 — 「ネタ」ではなく「文脈」を渡す
BOATshipは「Business Art Team」として、広報素材をつくるとき、出来事そのものより「その出来事がどんな流れの中にあるか」を一緒に渡すことを大切にしています。たとえば等価交換報酬制度は、単体では一社の変わった制度に過ぎません。しかし「お金以外の価値で仕事が成立するか」という社会的な問いの中に置き直すと、記者が読者に説明できる話になります。ニュースバリューでいう「意味づけ(読者にとっての関連性)」を、企業側があらかじめ引き受けておくということです。地方企業のブランド開発でも同じで、その土地の文脈に結びついた固有名詞のある物語は、東京発の一般論より確実に選ばれます。そして重要なのは、選ばれなかったときにその素材が無駄にならない設計にしておくこと。Owned(自社メディア)に置いた記事は、続報の土台としても、次の取材の資料としても働き続けます。
メディアリレーションズのチェックリスト
最後に、BOATshipが素材を渡す前に確認している問いを共有します。(1) 自社にとっての重要度ではなく、その媒体の読者にとっての関連性で語れているか。(2) 独自性——他社には出せない情報や視点が一つでも含まれているか。(3) 具体的な人物と固有名詞があるか(抽象的な「取り組み」で終わっていないか)。(4) 写真・図・データなど、そのまま使える素材が揃っているか。(5) 一斉配信ではなく、相手の担当領域と最近の記事を踏まえて渡しているか。(6) 単発ではなく続報として展開できる筋書きがあるか。——落ちた企画は、この6つのどれかを満たしていないことがほとんどです。成果をどう測るかは効果測定の設計で、企画書に落とす手順は広報企画の立て方で扱っています。この記事も、アクセス実績と読了率を見ながら継続的に更新します。引用した研究は末尾のエビデンス欄にまとめています。
